みのひだ社中|新トマトジュースブランド設計

マーケットインで考えると、どうなるか

2026-08-20 作成|TSUBASA(社長指示「行くわけではないが情報として知っておきたい」)

獺祭型(作りたいものを作って価値を認めさせる)の反対側から、消費者の不満・欲求を起点に組み立てるとどんな商品になるかを検証しました。

結論から言うと、両方から考えても同じ製品仕様に着地します
ただし、売り方の設計はマーケットイン側の方が具体的に出ます。

プロダクトアウトで出た「うま味で立てる」という答えと、マーケットインで出た「青臭さをなくす」という答えは、技術的には同じ方向を指しています。物語の作り方が違うだけで、作るものは変わりません。だから今回の検証は、方針の変更ではなく裏取りとして意味がありました。

01いちばん大きい数字

今回の調査でいちばん効く事実です。カゴメが全国1,000人に聞いた自社調査から出ています。

42%
トマトが好きな人のうち「トマトジュースは苦手」と答えた割合
カゴメ調査(2015年・全国20〜79歳男女1,000人)。トマトが好きな人は79%=788人、そのうち333人が苦手と回答

そして苦手な理由の最多が「におい(青臭さ)」で37%。味でも値段でもなく、においです。

さらに重要なのは、カゴメ自身がこの層を取り込めることを実証している点です。同社が「トマト好きだがジュースは苦手」な100人にプレミアム品を試飲させたところ、61%が「おいしい」、73%が通常品より「飲みやすい」と回答しています。つまり製法しだいで振り向く層が実在することを、業界最大手が自分で証明してくれているということです。

02市場の全体像(伸びている場所と縮んでいる場所)

ここは分けて見る必要があります。「野菜ジュース」と「トマトジュース」は逆方向に動いています。

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03消費者の実像(データで確認できたもの)

項目データ出典・時期
買う理由 1位「野菜不足を補うため」47.5%マイボイスコム
買う理由 2位以下「おいしい」「手軽に栄養が摂れる」各30%台、「なんとなく体によさそう」約2割同上
飲む場面「朝食時」43.5%で最多。男性10〜30代は夕食時が他層より高い同上
よく飲む層週1回以上は男性10・20代と60・70代で約6割同上
女性の重視点「味」「飲みやすさ」を男性より明確に重視同上
無塩品への不満「塩がないため味が薄い」「トマト本来の味わいが単調」cosme.net 口コミ104件
値上げの受け止め「高くなった」50.0%/「量が減った」12.5%。半年内の購入離脱層が拡大JMR生活総合研究所
二日酔いトマトジュース同時摂取で最高血中アルコール濃度が約3割低下、消失が50分早まる(ヒト試験)アサヒ×カゴメ共同研究・2012年学会発表

04データから素直に導かれる商品案(4つ)と判定

マーケットインの手順どおり、不満の大きい順に商品を立てて、自社でやれるかを判定します。

案 M1青臭くないトマトジュース

最大の未充足(苦手理由37%)に正面から答える案。飲んでいない人を取りに行くので、カゴメの客を奪うのではなく市場そのものを広げる方向になります。

◎ 狙う価値は高い。ただし「青臭くない」は減点をなくす訴求なので、それだけでは高い値段の理由になりません。「青臭くない、なぜなら○○だから」の○○が要ります。→ ここが後述の合流点です。

案 M2機能性表示食品(血圧・コレステロール)

市場で唯一はっきり伸びている領域。マップの空白②(高価格帯×機能)もここです。20代への浸透も起きています。

△ 領域としては正しいが、カゴメと同じ土俵で真正面からぶつかる。機能性表示の届出には根拠資料・費用・時間がかかり、後発が同じ機能で並んでも選ばれる理由が薄い。当社が取るなら「機能」ではなく「機能+別の何か」。

案 M3お酒の割材・食中に飲むトマトジュース(飲食店ルート)

男性10〜30代の夕食時飲用が他層より高いこと、レッドアイ文化、二日酔いの実証データが揃っています。飲食店(居酒屋・バー・レストラン)への業務用なら、量販の価格競争を避けられます。

○ 面白い。飲食店で使われることはそれ自体が権威づけになり、獺祭がロブションと組んだ構図に近い。ただし業務用は単価が下がりやすく、ブランドを作る前に業務用へ行くと格が決まってしまう。順番としては後

案 M4ギフト(贈答用)

楽天に「高級野菜ジュースギフト」が8,951件あり、受け皿は存在します。国内プレミアム勢の多くが桐箱・化粧箱で売っています。

○ 販路として有効。ただしこれは商品案ではなく売り方です。中身が決まってから考えることで、ここを起点にすると「箱がきれいなだけの商品」になります。

05プロダクトアウト版との突き合わせ

先に獺祭型(プロダクトアウト)で出した答えと、今回の答えを並べます。

プロダクトアウト(獺祭型)の答え

  • 上位グレード1本に絞る
  • うま味(UMAMI)の文脈で立てる
  • 甘さではなく旨味で美味しくする
  • 「23%」に相当する自社だけの数字を作る
  • 地元を通さず東京・海外へ直接

マーケットイン(消費者起点)の答え

  • 青臭さをなくす(苦手理由37%)
  • 無塩なのに味が薄くない(口コミの不満)
  • 女性は「味」「飲みやすさ」を重視
  • 飲んでいない層を取りに行く
  • 飲食店・ギフトの販路
この2つは、同じ製品仕様に合流します

青臭さを抑えて、旨味を立てる」——マーケットインの答え(青臭くない・薄くない)と、プロダクトアウトの答え(うま味で立てる)は、技術的には同じ一つの方向です。青臭さの正体は葉や茎に由来する香り成分で、これを抑えつつグルタミン酸の旨味を前に出す設計は、両方の要求を同時に満たします。

しかもこの解き方は競合と重なりません。OSMICをはじめ国内プレミアム勢は「糖度」=甘さで飲みやすさを解決しており(糖度13〜18度)、フルーツに寄せる方向です。旨味で解く商品は、調べた範囲では見当たりませんでした。

整理すると、マーケットインは「なぜ買われるか」の裏取りに、プロダクトアウトは「何を作るか」と「なぜ高いか」の説明に効きます。片方だけだと、前者は差別化が薄くなり、後者は独りよがりになります。

06マーケットインで進める場合の弱点(正直に)

① 競合も同じデータを見ている

今回いちばん重要だった42%という数字はカゴメ自身が公表したものです。当然カゴメはこの層を狙っており、実際にプレミアム品で手を打っています。消費者データから素直に出る答えは、たいてい最大手が先に着手しています。

② 消費者は「既存商品の改良」しか言えない

アンケートから出てくるのは「青臭くない」「薄くない」「安い」といった既にあるものの改善要望です。獺祭の精米歩合23%も、聞いて出てきた答えではありません。新しいカテゴリを作る答えは、消費者調査からは出てきません。

③ データが古い

今回いちばん効いた調査は2015年、飲用実態は2012〜2015年、二日酔いの研究は2012年のものです。市場規模のトレンドは直近が取れましたが、「なぜ飲まないか」「何が不満か」を測った直近の定量調査は見つかりませんでした。裏を返せば、この領域の消費者理解は業界全体で手薄で、自社で一次調査をやる価値がある領域とも言えます。

④ ニーズを追うと縮む市場を追うことになる

「野菜不足を補う」という最大の購入理由(47.5%)が属する野菜ジュース市場は縮小しています。既存ニーズの中心に寄せるほど、縮む側に寄ることになります。

07それでも持ち帰るべき3点

主な出典 この資料で断定していないこと